その騎士は優しい嘘をつく
 かわいそうに、彼の手の中のパンは見事につぶれてしまったようだ。つぶれたパンを握りしめながら、ハイナーはわなわなと震えている。

「その男が、浮気相手とはかぎらないだろう? 友人とか、さ」
 怒りに震えているハイナーを落ち着かせることのできるような言葉を選びながらロルフはそれを言った。

「だが、相手の男は、アンの腰に手を回していた。二人はただならぬ関係だ」
 ハイナーはつぶれたパンをそのまま咬み千切った。

「アンネッテはそういう女性じゃない。俺の妹の大事な友人だ」

「残念ながら、そういう女性だったんだよ。お前の妹にも言っておけ」

 ロルフが知る限り、アンネッテという女性はとても誠実な女性だ。妹の友人の中でも、妹が懇意にしている女性。
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