その騎士は優しい嘘をつく
 二人、残される。

 こう改めて二人きりにされてしまうと、気まずい。

「え、と。私、お風呂に入ってくる」
 あまりの気まずさに、アンネッテは逃げた。

 一人残されたハイナーは悶々と悩むしかなかった。だが、すぐに考えを改める。今後の三人での生活について。
 まずは、結婚申請書を届け出なければ、正式な夫婦として認められない。だから、これは最優先。婚約指輪も渡したい。両親にもきちんと紹介しなければ。いや、それよりも三人で住む場所を探さなければ。
 と、やるべきことが多いことに気付く。あまりにも多すぎて、両手で頭を抱え込んでしまった。そうやって、抱え込んでいたから気付かなかった。

「ハイナー? どうかした? 具合でも悪い?」

 湯上りの彼女の肌は、ほんのりと赤く色づいていた。

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