婚約破棄された私は悪役令嬢に堕ちて慰謝料としてこの国を貰いました 〜冴えない地方令嬢の復讐劇〜
小さな街ではあるが、トーマスの言った通り、カップルが目立っていた。デートスポット、それは私にとって未知の領域。だけど、下手に動いて弱さをこれ以上見せられない。
だから私は……トーマスにすべてを任せようとしていた。
「トーマス、すべてをアナタに任せます。が、今日一日は想い人の代わりとは言っても、このレイチェルを怒らせないことね。い、い、わ、ねっ」
「はい、肝に銘じておきます。ではレイチェル、私がこの街を案内しますね」
トーマスは嬉しそうな顔で、私の手を引っ張り歩き始める。
もちろん、鉄仮面は馬車の中に置きっぱなしで……。
カップルだらけですわ。デート……か、そういえば、ミシェル様とは一度もしなかったわね。王子という立場があるって、分かっていましたけど。でも、ううん、ミシェル様は私をゴミのように捨てたのよ。
もし、王子でなかったら……亡き者にしていたかもしれません。
私の中で忘れ去られた復讐という言葉。
それは、冷静ないまだからこそ浮かび上がってきた。
だけど、復讐などしたら、たとえ領主といえただでは済まない。そんなことは分かっているのよ。
「レイチェル、私とではやはりつまらないですか?」
「えっ、そ、そんなことないですわ。少し考えごとをしていただけですから」
「考えごと……それって、まさか……」
えっ、トーマスは心を読む力があるというの。そ、それじゃ、今までの私の考えが、バレちゃってるってことよね。ど、どうしましょう、あんな気持ちを知られたら……。
「トーマス、アナタが今思ってることなど、断じてありませんわ。このレイチェルがそのような細かいこと、気にするはずがないですもの」
「そう、ですか。私の早とちり……ですよね」
なんで残念そうな顔をしてるのよ。この私に復讐しろ、そう言いたいのですか。でも、さすがに王子相手に復讐は……反逆者として囚われてしまいます。
復讐……か。
トーマスの想いに、私はなぜか応えようとしてしまう。心の中に燻り始めるミシェル様への怨念。それが、解放されようとしていた。
「そうだ、レイチェル。ここのソフトクリームが絶品なのです。食べてみますか?」
「えぇ、食べますわ。ちゃんと、このレイチェルに食べさせるのが、トーマスの責務ですからね」
私から不意に飛び出した言葉。
それは何も考えずに勝手に出たモノ。
それが本心なのか、その場の流れからなのか、私には分からなかった。
「レイチェル、はいっ、ソフトクリームですよ。どうぞ、召し上がってください」
「へっ? このまま食べろというのですのっ!?」
「レイチェルが『食べさせなさい』と言いましたので……」
「そんなこと、このレイチェルが言うわけ……」
あれ? 言ったかも、しれませんわ。も、もう、なんでそんなことを言ってしまったのよっ。うぅ、仕方ありません、ここは素直に……。
「言いましたわね。少しトーマスを試しただけ、ですわ。そ、それでは、食べさせてもらいますわね。あ〜ん」
──パクリ。
私は赤面した顔のまま、ソフトクリームを口に入れてもらう。クリーミーで甘くてとても美味しい、そのはずなのですが、私の頭はそれどころじゃなかったのよ。
だって……トーマスの笑顔が眩しすぎるのですもの。
心に湧き上がる何かが、再び私を乱し始める。気のせいかもしれないけど、瞳が潤んでいるように感じていた。
でも、そんな気持ちは一瞬で崩壊してしまう。
それは、すれ違ったカップルの噂によって……。
「ねぇ、聞いた〜? ミシェル様、シェリーという女性と結婚したんですって」
「知ってるよっ。それに確か、前に婚約した人が、噂と違ってタイプじゃなかったから、婚約破棄したって噂もあるんだよ〜」
「そうなの? それは知らなかったかな〜」
「なんでも、その場の勢いで決めたみたいだけど、冷静に考えたら生理的に無理だったとか、ね」
「えー、なんだかその人可哀想すぎる〜。でも、ミシェル様なら許しちゃうかもっ」
何気ない噂話に私の顔は豹変してしまう。
馬車から突如届いた鉄仮面をつけ、復讐の炎を灯そうとしていた。忘れようとしていた怒りが、トーマスの存在を忘れさせたのだ。
だから私は……トーマスにすべてを任せようとしていた。
「トーマス、すべてをアナタに任せます。が、今日一日は想い人の代わりとは言っても、このレイチェルを怒らせないことね。い、い、わ、ねっ」
「はい、肝に銘じておきます。ではレイチェル、私がこの街を案内しますね」
トーマスは嬉しそうな顔で、私の手を引っ張り歩き始める。
もちろん、鉄仮面は馬車の中に置きっぱなしで……。
カップルだらけですわ。デート……か、そういえば、ミシェル様とは一度もしなかったわね。王子という立場があるって、分かっていましたけど。でも、ううん、ミシェル様は私をゴミのように捨てたのよ。
もし、王子でなかったら……亡き者にしていたかもしれません。
私の中で忘れ去られた復讐という言葉。
それは、冷静ないまだからこそ浮かび上がってきた。
だけど、復讐などしたら、たとえ領主といえただでは済まない。そんなことは分かっているのよ。
「レイチェル、私とではやはりつまらないですか?」
「えっ、そ、そんなことないですわ。少し考えごとをしていただけですから」
「考えごと……それって、まさか……」
えっ、トーマスは心を読む力があるというの。そ、それじゃ、今までの私の考えが、バレちゃってるってことよね。ど、どうしましょう、あんな気持ちを知られたら……。
「トーマス、アナタが今思ってることなど、断じてありませんわ。このレイチェルがそのような細かいこと、気にするはずがないですもの」
「そう、ですか。私の早とちり……ですよね」
なんで残念そうな顔をしてるのよ。この私に復讐しろ、そう言いたいのですか。でも、さすがに王子相手に復讐は……反逆者として囚われてしまいます。
復讐……か。
トーマスの想いに、私はなぜか応えようとしてしまう。心の中に燻り始めるミシェル様への怨念。それが、解放されようとしていた。
「そうだ、レイチェル。ここのソフトクリームが絶品なのです。食べてみますか?」
「えぇ、食べますわ。ちゃんと、このレイチェルに食べさせるのが、トーマスの責務ですからね」
私から不意に飛び出した言葉。
それは何も考えずに勝手に出たモノ。
それが本心なのか、その場の流れからなのか、私には分からなかった。
「レイチェル、はいっ、ソフトクリームですよ。どうぞ、召し上がってください」
「へっ? このまま食べろというのですのっ!?」
「レイチェルが『食べさせなさい』と言いましたので……」
「そんなこと、このレイチェルが言うわけ……」
あれ? 言ったかも、しれませんわ。も、もう、なんでそんなことを言ってしまったのよっ。うぅ、仕方ありません、ここは素直に……。
「言いましたわね。少しトーマスを試しただけ、ですわ。そ、それでは、食べさせてもらいますわね。あ〜ん」
──パクリ。
私は赤面した顔のまま、ソフトクリームを口に入れてもらう。クリーミーで甘くてとても美味しい、そのはずなのですが、私の頭はそれどころじゃなかったのよ。
だって……トーマスの笑顔が眩しすぎるのですもの。
心に湧き上がる何かが、再び私を乱し始める。気のせいかもしれないけど、瞳が潤んでいるように感じていた。
でも、そんな気持ちは一瞬で崩壊してしまう。
それは、すれ違ったカップルの噂によって……。
「ねぇ、聞いた〜? ミシェル様、シェリーという女性と結婚したんですって」
「知ってるよっ。それに確か、前に婚約した人が、噂と違ってタイプじゃなかったから、婚約破棄したって噂もあるんだよ〜」
「そうなの? それは知らなかったかな〜」
「なんでも、その場の勢いで決めたみたいだけど、冷静に考えたら生理的に無理だったとか、ね」
「えー、なんだかその人可哀想すぎる〜。でも、ミシェル様なら許しちゃうかもっ」
何気ない噂話に私の顔は豹変してしまう。
馬車から突如届いた鉄仮面をつけ、復讐の炎を灯そうとしていた。忘れようとしていた怒りが、トーマスの存在を忘れさせたのだ。