婚約破棄された私は悪役令嬢に堕ちて慰謝料としてこの国を貰いました 〜冴えない地方令嬢の復讐劇〜
あれから数日、片時も私は彼のことが頭から離れなかった。彼とは……トーマスという冴えない男。まるで、昔の私にそっくりなのだ。
ひと言でいうなら地味。でも、今の私は地味娘を卒業し、立派な悪役令嬢として、この地に君臨している。はずなのに、彼の前だけでは、以前の私が顔を見せてしまう。
「決めたわ。だって、このままでいいわけないもの。闇堕ちして、悪役令嬢になるって、私はこの胸に誓いを立てたのよっ。たとえ、この気持ちが……ううん、そんなことありえないわね」
私は屋敷の最奥でひとり考えごとをしていた。
あの男……トーマスを全力で否定する、それが私の出した結論。きっと否定をしなければ、私という存在が消えてしまう。
でも、トーマスを排除すれば一番効率がいいのは知ってる。だけど……私の心はその選択肢を否定したのだ。
「セバスチャン、セバスチャンはいるの? 私からの命令をトーマスに伝えなさい」
「わたくしめなら、ここにおります。レイチェル様、トーマスに伝える命令とは、いったいなんでございましょう」
「えぇ、トーマスに私を護衛をしなさいって伝えなさい。べ、別にデートに誘えと言ってるわけじゃないのよ。ただ、彼の護衛能力を試したい、それだけなんですわ」
もぅ、何を言ってるのよレイチェル。これじゃまるで……ツンデレじゃないのっ。こんなの私じゃない、私は悪役令嬢に堕ちるって決めたのですから。
揺れ動く心を私は強く否定した。絶対に弱みなどみせてはならない、相手に付け入る隙を与えてはならないのだ。
鉄仮面で顔を覆い、いつもの冷たい視線をセバスチャンに向ける。彼の心臓を凍てつかすように……。
「はっ、レイチェル様の仰せのままに」
「それと、くだらぬ噂など流したのなら……即処刑いたしますと、すべての者に伝えなさい。もちろん、口にした者もすべてね?」
「御意」
ふぅ、これで面目は保てたかしら。セバスチャンは感情を顔に出さないから、よく分からないのよね。昔からなんですけど……。
そう、セバスチャンは本当に人間なのかと疑うほど、感情を表に出さないのだ。私が幼いころからずっと一緒だったけれど、彼の心が見えたことなど一度もなかった。
「レイチェル様、準備が整いましたので、お呼びに参りました。この度は、このトーマスを指名していただき、感謝の極みにございます」
トーマスが私の元を訪れたのは、わずか数分後であった。鉄仮面で心を隠し、冷徹な視線で彼の心を支配しようとする。
ん? なんで、心を隠す必要があるのよ。別にデートするわけじゃ……って、違う、そうじゃないのよ。私はただ……彼を思うがままに操りたり。ホントにそれだけなんだから……。
「ふんっ、遅いわよ。このレイチェルを待たせるだなんて、いい度胸でないの。これから街へ繰り出します、ですから、護衛をお願いするわ。行き先は、トーマス、アナタが決めるのよ? もちろん、このレイチェルを満足させなければ、どうなるか、お分かりよね?」
よし! これで主導権は私のモノよ。ふふふ、あの困惑した顔、ゾクゾクするわ。そうよ、これが今の私なんです、ですから、あのような気持ちは偽りに決まっていますもの。
冷酷な笑みを浮かべ、私はトーマスを見下ろしていた。
このナーシャを支配する私が、ただひとりの男に心を惑わされてはならない。これは、秩序に関わる重要な問題なのだ。
「お任せください、レイチェル様。デートという任務、このトーマスが見事成し遂げてみせます。この身をレイチェル様に捧げると、この場でもう一度誓います」
で、デートですって!? あれ、もしかして……私、口が滑って、デートなんて言ってしまったかしら。というより、この身を捧げるって、違う、そんなんじゃないわよ。もぅ、なんでこの男はこうも私の心を乱すのよ、ばかっ。
鉄仮面の下では……私の顔はわずかに赤く染まっていた。妄想が私を惑わす中、トーマスを引き連れ街へと出かけたのだ。
ひと言でいうなら地味。でも、今の私は地味娘を卒業し、立派な悪役令嬢として、この地に君臨している。はずなのに、彼の前だけでは、以前の私が顔を見せてしまう。
「決めたわ。だって、このままでいいわけないもの。闇堕ちして、悪役令嬢になるって、私はこの胸に誓いを立てたのよっ。たとえ、この気持ちが……ううん、そんなことありえないわね」
私は屋敷の最奥でひとり考えごとをしていた。
あの男……トーマスを全力で否定する、それが私の出した結論。きっと否定をしなければ、私という存在が消えてしまう。
でも、トーマスを排除すれば一番効率がいいのは知ってる。だけど……私の心はその選択肢を否定したのだ。
「セバスチャン、セバスチャンはいるの? 私からの命令をトーマスに伝えなさい」
「わたくしめなら、ここにおります。レイチェル様、トーマスに伝える命令とは、いったいなんでございましょう」
「えぇ、トーマスに私を護衛をしなさいって伝えなさい。べ、別にデートに誘えと言ってるわけじゃないのよ。ただ、彼の護衛能力を試したい、それだけなんですわ」
もぅ、何を言ってるのよレイチェル。これじゃまるで……ツンデレじゃないのっ。こんなの私じゃない、私は悪役令嬢に堕ちるって決めたのですから。
揺れ動く心を私は強く否定した。絶対に弱みなどみせてはならない、相手に付け入る隙を与えてはならないのだ。
鉄仮面で顔を覆い、いつもの冷たい視線をセバスチャンに向ける。彼の心臓を凍てつかすように……。
「はっ、レイチェル様の仰せのままに」
「それと、くだらぬ噂など流したのなら……即処刑いたしますと、すべての者に伝えなさい。もちろん、口にした者もすべてね?」
「御意」
ふぅ、これで面目は保てたかしら。セバスチャンは感情を顔に出さないから、よく分からないのよね。昔からなんですけど……。
そう、セバスチャンは本当に人間なのかと疑うほど、感情を表に出さないのだ。私が幼いころからずっと一緒だったけれど、彼の心が見えたことなど一度もなかった。
「レイチェル様、準備が整いましたので、お呼びに参りました。この度は、このトーマスを指名していただき、感謝の極みにございます」
トーマスが私の元を訪れたのは、わずか数分後であった。鉄仮面で心を隠し、冷徹な視線で彼の心を支配しようとする。
ん? なんで、心を隠す必要があるのよ。別にデートするわけじゃ……って、違う、そうじゃないのよ。私はただ……彼を思うがままに操りたり。ホントにそれだけなんだから……。
「ふんっ、遅いわよ。このレイチェルを待たせるだなんて、いい度胸でないの。これから街へ繰り出します、ですから、護衛をお願いするわ。行き先は、トーマス、アナタが決めるのよ? もちろん、このレイチェルを満足させなければ、どうなるか、お分かりよね?」
よし! これで主導権は私のモノよ。ふふふ、あの困惑した顔、ゾクゾクするわ。そうよ、これが今の私なんです、ですから、あのような気持ちは偽りに決まっていますもの。
冷酷な笑みを浮かべ、私はトーマスを見下ろしていた。
このナーシャを支配する私が、ただひとりの男に心を惑わされてはならない。これは、秩序に関わる重要な問題なのだ。
「お任せください、レイチェル様。デートという任務、このトーマスが見事成し遂げてみせます。この身をレイチェル様に捧げると、この場でもう一度誓います」
で、デートですって!? あれ、もしかして……私、口が滑って、デートなんて言ってしまったかしら。というより、この身を捧げるって、違う、そんなんじゃないわよ。もぅ、なんでこの男はこうも私の心を乱すのよ、ばかっ。
鉄仮面の下では……私の顔はわずかに赤く染まっていた。妄想が私を惑わす中、トーマスを引き連れ街へと出かけたのだ。