婚約破棄された私は悪役令嬢に堕ちて慰謝料としてこの国を貰いました 〜冴えない地方令嬢の復讐劇〜
私の顔は今……鏡を見なくても分かる。だって、こんなにも心音が大きくなっているのだから……。
──ドクン、ドクン……。
何が起きたの、お願い止まってよ。体が熱い……こんなの、私じゃないよ。だって、これじゃ、何も変わってないもの。男なんて……どうせ最後には、私を裏切るだけの存在なのよ。
ミシェル王子からの婚約破棄が、私を闇へと誘った。男など利用するだけでいい、それが私のたどり着いた結論だった。それなのに……どうして、心がこんなにも揺らいでしまうのよ。
「トーマス、いいこと、ぜ〜たいにっ、おいたをしたら許しませんからねっ。一族、すべてに地獄の苦しみを与えるわよ」
「お任せください、私はレイチェルを悲しませない。必ず、笑顔にしてみせますゆえ」
「そっ、分かっていれば、いいわ」
「はい。あっ、レイチェル、動かないで……」
「──!? こ、ここで何を……」
だ、ダメ、トーマスを払い除けなくちゃ。でも、力が…入らないよ。心をしっかり持つのよ、レイチェル。ここで流されたら……意味がないんですからっ。
急に顔を近づけるトーマスに、私は頭が真っ白となる。必死に抵抗するも、体が思うように動かない。そして、想いに反し、私は自然と目を閉じてしまった。
まるで心が何かを期待するように……。
緊張の中で、頬に優しく柔らかい何が触れる。それが何かはまったく検討がつかなかった。だって今の私には……胸の鼓動しか聞こえなかったのですから。
「終わったよ、レイチェル。汚れっぱなしじゃ、綺麗な顔が台無しだよ」
「ふぇっ!? えっ、あっ……そ、そうね、ご苦労なことですこと。これくらいできて、当然ですわ」
もぅビックリさせないでよね。いくらなんでも、こんなところで……キスするわけないわ。いえ、違うわね、だって初めて会ったときに、手の甲とはいえ、私にキスをした前科があるんですから。
この男、どこまで私を翻弄すればいいのよ、ばかっ。
トーマスの存在を一緒忘れ、私はもうひとりの自分と対話していた。この動揺は彼のせいであって、私のせいではない。そう何度も言い聞かせる。
他の男どもと同じ態度が取れるよう、自己暗示をかけていると……。
「──チェル、レイチェル。目的地に着きましたよ」
「と、トーマス!? つ、着いたのね、そう、やっと着きましたのね。それにしても、この街は……」
「なんでも、若いカップルに人気のデートスポットです。とは言いましても、レイチェルに仕える前に聞いた話なのですが」
「デート……スポット……。そう、ですよね、私、トーマスとデートを……」
「どうされましたか、レイチェル?」
「な、なんでもないわよっ。ほら、早くこのレイチェルをデートに連れていきなさいよね?」
ち、ちょっと待って。デートって、ち、違う、間違いよ、本当は護衛っていうつもりだったのです。だってそうでしょ、今日の目的はあくまでも護衛ですし、デートだなんて……。
で、でも、今日一日はトーマスの想い人になるって言ってしまいましたし、護衛と言い切ってしまうのも、なんだか違和感がありますから。
私は自分の中で、理由を考え納得しようとする。
今日はレイチェルであって、レイチェルではない。あくまでも、トーマスの想い人なのだと……。
「レイチェル、その、手を握ってもよろしいでしょうか?」
「あ、当たり前じゃないのっ。今日一日はアナタの想い人なんですからねっ。これは、レイチェルとしての命令よ。その……ちゃんと楽しませなさいよっ、でないと、処刑じゃ許さないですからね」
初めて感じたトーマスの温もり。
それは私の心に何かを刻む。
笑顔を崩さない彼に連れられ、私は初めてのデートへ繰り出そうとしていた。
──ドクン、ドクン……。
何が起きたの、お願い止まってよ。体が熱い……こんなの、私じゃないよ。だって、これじゃ、何も変わってないもの。男なんて……どうせ最後には、私を裏切るだけの存在なのよ。
ミシェル王子からの婚約破棄が、私を闇へと誘った。男など利用するだけでいい、それが私のたどり着いた結論だった。それなのに……どうして、心がこんなにも揺らいでしまうのよ。
「トーマス、いいこと、ぜ〜たいにっ、おいたをしたら許しませんからねっ。一族、すべてに地獄の苦しみを与えるわよ」
「お任せください、私はレイチェルを悲しませない。必ず、笑顔にしてみせますゆえ」
「そっ、分かっていれば、いいわ」
「はい。あっ、レイチェル、動かないで……」
「──!? こ、ここで何を……」
だ、ダメ、トーマスを払い除けなくちゃ。でも、力が…入らないよ。心をしっかり持つのよ、レイチェル。ここで流されたら……意味がないんですからっ。
急に顔を近づけるトーマスに、私は頭が真っ白となる。必死に抵抗するも、体が思うように動かない。そして、想いに反し、私は自然と目を閉じてしまった。
まるで心が何かを期待するように……。
緊張の中で、頬に優しく柔らかい何が触れる。それが何かはまったく検討がつかなかった。だって今の私には……胸の鼓動しか聞こえなかったのですから。
「終わったよ、レイチェル。汚れっぱなしじゃ、綺麗な顔が台無しだよ」
「ふぇっ!? えっ、あっ……そ、そうね、ご苦労なことですこと。これくらいできて、当然ですわ」
もぅビックリさせないでよね。いくらなんでも、こんなところで……キスするわけないわ。いえ、違うわね、だって初めて会ったときに、手の甲とはいえ、私にキスをした前科があるんですから。
この男、どこまで私を翻弄すればいいのよ、ばかっ。
トーマスの存在を一緒忘れ、私はもうひとりの自分と対話していた。この動揺は彼のせいであって、私のせいではない。そう何度も言い聞かせる。
他の男どもと同じ態度が取れるよう、自己暗示をかけていると……。
「──チェル、レイチェル。目的地に着きましたよ」
「と、トーマス!? つ、着いたのね、そう、やっと着きましたのね。それにしても、この街は……」
「なんでも、若いカップルに人気のデートスポットです。とは言いましても、レイチェルに仕える前に聞いた話なのですが」
「デート……スポット……。そう、ですよね、私、トーマスとデートを……」
「どうされましたか、レイチェル?」
「な、なんでもないわよっ。ほら、早くこのレイチェルをデートに連れていきなさいよね?」
ち、ちょっと待って。デートって、ち、違う、間違いよ、本当は護衛っていうつもりだったのです。だってそうでしょ、今日の目的はあくまでも護衛ですし、デートだなんて……。
で、でも、今日一日はトーマスの想い人になるって言ってしまいましたし、護衛と言い切ってしまうのも、なんだか違和感がありますから。
私は自分の中で、理由を考え納得しようとする。
今日はレイチェルであって、レイチェルではない。あくまでも、トーマスの想い人なのだと……。
「レイチェル、その、手を握ってもよろしいでしょうか?」
「あ、当たり前じゃないのっ。今日一日はアナタの想い人なんですからねっ。これは、レイチェルとしての命令よ。その……ちゃんと楽しませなさいよっ、でないと、処刑じゃ許さないですからね」
初めて感じたトーマスの温もり。
それは私の心に何かを刻む。
笑顔を崩さない彼に連れられ、私は初めてのデートへ繰り出そうとしていた。