「好き」とは絶対言いません！

お店にやって来る人たちに笑顔で挨拶し、悩んでいる様子のお客さんに服を選び、「ありがとうございました！」と笑って見送る。そうしているうちに閉店時間になり、花枝の退勤時間も迫ってきた。

（家に帰りたくない……）

そう思うも、ストーカーのことを話して心配をかけたくない。花枝は笑顔を作って同僚たちと別れ、マンションに向かって歩き出す。

コツ、コツ、コツ、コツ……。

花枝が歩く後ろで、もう一つ誰かの足音が響く。視線が今日はいつもより強く感じた。

（気持ち悪い……！だけど、ここで走ったら絶対に相手も走ってくるよね）

コツ、コツ、コツ、コツ……。

恐怖だけが花枝の心に蓄積されていく。刹那、花枝と同じスピードで歩いていたはずの後ろにいた人物が走り出し、花枝の腕を掴んで裏路地へと引きずり込む。一瞬の出来事に、花枝は声を上げることすらできなかった。

「へへっ、こんばんはぁ〜」

花枝の前に立ち塞がり、腕を掴んでいるのは三十代前半と見られる男だ。フード付きの地味な服を着ており、髪はボサボサの金髪である。