最初で最後の恋をおしえて
「大和さんがされている時計。憧れていた時計だったんですか?」
「時計? 俺の?」
プレゼントの紙袋でも、笹野でもない、時計が話題に上り、面食らった様子だ。
「時計は、まあそれなりにこだわって買った」
「私、時計とは違います」
「は? 一緒にした覚えはないけど」
「だって、笹野さんが『時計は如月さんを現している』とおっしゃって。時計に見合う男になれるよう、奮起しているって」
黙る羽澄を見つめる。羽澄はため息を吐いた。
「俺はきみに憧れてはいない」
それはそうだ。逃げ出したい婚約者だったのだから。
スカートをつかみ、顔を俯かせる。
「時計は、たしかにそんなニュアンスで人に話した覚えはある。勝手な憶測に尾ひれがついたんだろう」