最初で最後の恋をおしえて

 沈黙が流れ、それから羽澄が小さくこぼす。

「そんな噂話ひとつで、受け取ってもらえなかったのか」

 冷たい声は、胸を苦しくさせた。

「紬希」

 こちらを向いた羽澄の手が、腕に触れた。

 反射的に体を縮ませると、自分で自分の体を抱き寄せ、彼から距離を取った。

 噂ひとつで受け取らなかったわけじゃない。

 ただ高価な贈り物をしておけば、喜ぶだろうと気持ちを蔑ろにされた気がしたせいだ。

『俺の気持ち』と言ってプレゼントを渡した彼。

 彼の言う気持ちとは、結局はお金で買える程度のものだと言われている気がした。

「私にも譲れない思いがあります」

「ああ」

 目をギュッとつぶり、ひと思いに告げる。

「私、羽澄さんの気持ちには応えられません」

 しばらく間が空いてから「そうか。わかった」と声がして、視界が回転した。

 肩を押され、気づけばソファを背にし、羽澄に見下ろされていた。
< 102 / 143 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop