最初で最後の恋をおしえて
「それでもきみは、婚約は断らない。そうだろう?」
目の奥まで冷え切った眼差しに、唇が震えないよう強く引き結ぶ。
「昨日は、婚約者として相手してくれたってわけだ」
腕を押さえられ、顔が近づいてくる。力一杯顔を背けても、彼からは逃れられない。
首すじに舌を這わされ、体を捩る。強制的に淫らな感情を引き出される感覚は、心がバラバラになりそうになる。
「やっ、やめてください」
悲痛な声を漏らしても、羽澄の心には届かない。
「好きでもない男と結婚する覚悟は出来ていたんだろう? それなら、応じるべきだ」
婚約、そして結婚。のちに子どもを授かるのは、如月家の人間として当然の責務。
抵抗を止めると、体はカタカタと震え出した。せめて泣き叫んでしまわないように、下唇を噛む。
「どんな心掛けだよ」
羽澄は自分の頭をかき回してから、絞り出すように言った。
「その態度が俺をどれだけ傷つけてるのか、紬希にはわからないだろうな」
顔を背けた羽澄は体を離し、ソファからも立ち上がりリビングから出て行った。
なぜだろう。後から後から涙があふれた。