最初で最後の恋をおしえて
部屋を出て、廊下を進む。ほどなくしてリビングまでたどりついた。羽澄はソファで眠っていた。
ソファでは寝にくいのか、腕組みをして眉間に皺を寄せている。
「そっか。ベッド、私に譲ったから」
初めて見た寝顔。美しい顔立ちが険しいと、見ていて胸が苦しくなる。
朝晩はまだ肌寒い。紬希は身震いをしてから、部屋を出た。彼の寝室から毛布と布団を持ってきて、彼にかける。
両方は暑いかな。毛布だけ彼の体から外し、自分が包まる。そして彼の眠るソファを背にしてフローリングに腰掛け、目を閉じた。
私に対し乱暴な行動をしても、ベッドを譲ってしまう彼の側にいたかった。
ふと気が付いて、自分がまた眠っていたのだと知る。
「きみの譲れない思いとは?」
謎かけが聞こえ、「んー」と寝ぼけ声を出す。
「俺の想いに応えられないのなら、姿を消すべきじゃないの?」
不穏な呼びかけに、目を開ける。
目の前に、眉をひそめている羽澄がいた。羽澄は紬希の隣に腰を下ろし、紬希を覗き込んでいた。
「おは、ようございます」
「おはよう。きみは、気持ちが通い合っていない男の家に泊まる女なんだな。ガッカリだよ」
冷めた声を聞き、息を詰まらせる。