最初で最後の恋をおしえて
冷蔵庫を覗く羽澄は、レタスにトマト、それからハムも。手際よく選んで出していく。
「基本的には、毎日を丁寧に過ごしたいタイプなんだ。時間が許せば自炊したいし、朝食も疎かにしたくない」
「素敵ですね」
「そうかな。面倒って思う人もいるんじゃない? 朝はコーヒーだけって人も聞くし」
「私も食べるのは好きですよ」
実際、いいなあと思う。休日の朝、こんな風に朝食を準備するのは。
「だから前は本当にイレギュラーというか。あの日は夕食もとらずに……なんて話をしたところで、信じてもらえないか」
口籠りながらも、羽澄は慣れた手つきでトマトを切っている。紬希は、隣に並んでレタスをちぎる。
「いえ、知りたいです。羽澄さんの普段の生活」
「それなら、呼び方を大和に変えてくれる? ふたりでいるときくらいイチャつきたい」
あまりの提案に、目を丸くする。
「イチャつくって言葉が羽澄さんから出てくるとは、意外です」
「ハハ。俺も。ほら、大和でしょう?」
「はい。大和さん」
「よろしい」
「ふふ」と笑うと、羽澄は紬希を真っ直ぐに見つめる。
「どうか、しましたか?」
「いや、いちいちかわいいから、キスをしたくなって困る」
軽口をたたく羽澄に、紬希は頬を膨らませる。
「さすが百戦錬磨ですね」
「おいおい。紬希以外に言ったことないよ。たとえお世辞でも、言ったら面倒が増えるだけだから」
またそうやって言いくるめようとするんだから。紬希は、はなから羽澄の言葉を信じていない。