最初で最後の恋をおしえて
コーヒーショップを出て、駅へと向かう。今日はこれで解散だ。
「女性と約束して、こんなに早く家に帰るのは初めてだよ」
ぼやく羽澄に、チクリと釘を刺す。
「小学生の恋をお手本にするつもり、本当におありですか?」
「それはもちろん」
胸を張る羽澄に、紬希は続ける。
「でしたら、小学生は軽々しくコーヒーショップには入れませんし、そもそもこんなに早い段階でふたりで会うなんて論外です」
「ああ、そうか。ごめんごめん」
心のこもっていない謝りの言葉を聞き、本当に大丈夫だろうかと疑いの眼差しを向ける。
「大丈夫だよ。ちゃんと如月さんに合わせる」
心を読んだのか、爽やかに言われ、ますます不安になる。
「本来なら、親戚の子の相手の子がリードして進んだ恋ですが、ご存じない羽澄さんは困ると思いますので、私が似た行動をします。ですから……」
「わかった。流れを読んで、同じ感じで接すれば間違わないと思うよ」
こんな茶番、なんの意味があるんだろう。喉元まで出掛かっている言葉は飲み込んで、「では、また月曜日に」と別れを告げた。