最初で最後の恋をおしえて
心の中でジタバタと暴れる紬希の手の中で「ピロリン」と軽い音がした。
視線をスマホに落とし、「うわっ」と声が漏れた。
《目を閉じて、心の中の紬希を思い出してる》
慌てふためきながら、急いで返信する。
《名前呼びは、時期尚早です!》
咄嗟に抗議しても、頬が熱い。
紬希的には、大切なドキドキするイベント。名字から名前に変えて呼ぶ気恥ずかしさは特別だ。
なのに羽澄は、簡単にそれを飛び越えてくる。
《ふたりのときだけ》
どうして知っているの!?
親戚の子から聞いてキュンとした言葉。照れるその子に優しく囁いた相手の子。上級者過ぎると、恐れ慄いた当時の記憶が蘇る。
実際、自分は囁かれたわけでもないのに、つい耳を塞ぐ。
「大丈夫ですか? 具合が悪そうですけど」
心優しそうな女性に声をかけられ、ハッとする。
「だ、大丈夫です。こ、ここで降りる駅ですので。すみませんっ!」
日本語が不確かになるほど、しどろもどろになりながら、頭を下げて下車をした。本当はあと二駅先の駅なのに。
春風の吹くホームで冷静を取り戻す。お陰でひとつ勉強になった。
公共の場所という状況を、わきまえなくてはならない。
彼とのやり取りは、人のいないところで確認しよう。そう心に刻んだ。