最初で最後の恋をおしえて
振り袖を着て準備をしていくと、とうとうこの日が来たのだと感じる。
存在だけ知らされて、会うのは今日が初めてだ。顔も名前もなにひとつ知らない。
せめて顔か名前を知れたら、その人に恋が出来たかもしれないのに、父は頑としておしえてくれなかった。
立派な料亭に着き、中庭を進む。美しい日本庭園にわずかばかり心が和む。
婚約者はまだ着いていないようで、座敷の奥に通される。父が上座に通されたことにより、この結婚が如月家にとって優位な立場であるのだと理解した。
家同士の政略結婚。婿養子に迎える相手側が、如月家よりも力があっては困るのかもしれない。
家の事情で相手が決まる。これも定めだと覚悟していた。
「お連れ様が到着なさいました」
仲居の声がして、より一層姿勢を正す。
「本日はありがとうございます」
襖が開くと、頭を下げ挨拶をする男性が顔を上げる。紬希は言葉を失った。
「堅苦しい挨拶はいい。羽澄くん、こちらに来なさい」
父の呼びかけに、幻覚ではない事実が突きつけられる。
「紬希も驚き過ぎだ。同僚として顔を合わせているから知った顔だと思うが、羽澄大和くんだ」
紛れもなく、如月ハウスに出向している羽澄だった。