最初で最後の恋をおしえて
「それならきみは、自分が言った言葉に最後まで責任を持つべきだ」
「逃げてくださいと、言った言葉ですか?」
恐る恐る問いかけると、羽澄は眉尻を下げた。前とは違い、どこか寂しげに見える。
「そうか。覚えていないのか」
苦笑する羽澄は、やはり柔らかな雰囲気を纏っている。
「ごめんなさい。私、大切ななにかを忘れていますか?」
「いや、謝らなくていい。謝るのは俺の方だ」
言い淀んでから、羽澄は続ける。
「改めてもう一度頼むよ。俺に恋をおしえてほしい。いや」
言葉を切り、真っ直ぐに紬希を見つめる。その瞳に迷いはなかった。
「俺と恋をしてくれないか。俺はきみと恋をしたい」
彼を凝視し、彼の真意を読み解こうと試みる。
それなのに、羽澄は表情を緩め、穏やかに言う。
「そんなに見つめられても、なにも出ないよ」
目を細め、慈しむような眼差しを向けられると、今がまだ都合のいい夢の中なのだろうかと錯覚しそうになる。
彼は、紬希の知っている羽澄だ。婚約者として現れたあの日の彼の方が、夢だったのだろうか。
「返事はまたでいい。とりあえず今後について話そう」
今後について。話し合う必要があるのだから、やはり彼は婚約者らしかった。