最初で最後の恋をおしえて

 葵衣は興奮気味に続ける。

「その上、葵衣に関係しそうな女性社員のところを回って、『自分が無理を言って婚約してもらった。私生活で環境が変わる彼女をサポートしてほしい』って頭を下げたのよ」

 感激している葵衣を尻目に、紬希は胸が張り裂けそうな思いがした。

 それは嘘だ。彼は好き好んで婚約したわけではない。

 これは彼の優しさだ。

「というわけだから、月曜からは安心して出社しなさい。それでも意地悪する女がいたら、羽澄さんにちゃんと言いなさいよ」

 葵衣はどこまで知っているのだろう。羽澄となぜ婚約に至ったのか。気になると思うのだけれど、聞いてはこなかった。

 これも彼女の優しさだろう。

 自分は周りの人の優しさに守られている。

 その事実を改めて確認し、強くならなくてはと心に誓った。
< 48 / 143 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop