最初で最後の恋をおしえて
葵衣は興奮気味に続ける。
「その上、葵衣に関係しそうな女性社員のところを回って、『自分が無理を言って婚約してもらった。私生活で環境が変わる彼女をサポートしてほしい』って頭を下げたのよ」
感激している葵衣を尻目に、紬希は胸が張り裂けそうな思いがした。
それは嘘だ。彼は好き好んで婚約したわけではない。
これは彼の優しさだ。
「というわけだから、月曜からは安心して出社しなさい。それでも意地悪する女がいたら、羽澄さんにちゃんと言いなさいよ」
葵衣はどこまで知っているのだろう。羽澄となぜ婚約に至ったのか。気になると思うのだけれど、聞いてはこなかった。
これも彼女の優しさだろう。
自分は周りの人の優しさに守られている。
その事実を改めて確認し、強くならなくてはと心に誓った。