最初で最後の恋をおしえて
月曜に出社すると、「如月さん、いいかしら」と女性社員数名に呼び出された。
声が震えそうになりながら、「はい」と応じ、彼女たちの後に続く。
強くなると決めた。なにか言われても、自分の意見を言わなくてはダメだ。
噂話を耳にして、給湯室で引き返していた頃とはもう違う。
そのお決まりの給湯室まで連れてこられ、胸がドクンと騒がしくなる。
「如月さん」
「はい」
数人に囲まれ、声が震える。
「ごめんなさい」
「え?」
拍子抜けして、間抜けな声が漏れる。
「羽澄さん素敵でしょう? だからちょっとうらやましかったのよね。特に笹野さん、本気で羽澄さんを狙ってて、ショックだったみたいで」
当の笹野もいて、本人を前にしたカミングアウトに驚きを隠せない。
笹野自身も口を開く。
「ごめんなさい。婚約を発表しても、羽澄さんは特に如月さんを気にかける様子がなかったから、無理矢理婚約させられたんだって勘違いしちゃって」
無理矢理は嘘じゃない。けれど、ここで訂正しては、羽澄の優しさが全て無駄になる。
紬希は嘘ではない話だけ伝えた。
「結婚は親が決めたもので、ずっと前から決まっていました。だから羽澄さんも私も戸惑っていて」
「え?」
いけない。余計な情報を口にしたのかな。せっかく羽澄さんが頭を下げてまでして、丸く収めてくれたのに。
後悔の渦に飲み込まれそうになっていると、笹野が羽澄との会話を明かす。
「でも、羽澄さんに、如月さんのこと好きなんですかって問いただしたのよ? そしたら」
羽澄の答えを聞き、紬希はなにも言えなかった。女性たちは納得しているらしく、「ごめんね。意地悪して」と謝って去っていった。