最初で最後の恋をおしえて
羽澄side:叶えたい夢
如月ハウスに出向が決まったと同時期に、如月眞太郎から食事に誘われた。とうとうその日が来たのだと、察知しなかったと言ったら嘘になる。
けれど緊張を悟られないように、何食わぬ顔で彼に会った。
如月の方は余裕そのものだった。
「そんなに身構えないでくれ」
そう言って笑う。
婚約を発表する席で初めて会うのでは、さすがに心構えがないだろうという配慮で、如月ハウスの出向を決めたと、伝えられた。
彼の意向ひとつで人事が決まる。恐ろしい男だと改めて思った。
そして、いち同僚のひとりとして、将来の結婚相手と対面を果たした。
彼女の第一印象は、かわいい人だった。そうでなくても、この話旨味がある。そう思えるくらいの度胸があれば、もしかしたら良かったのかもしれない。
大人になるにつれ、如月眞太郎が何者であるのか判明していく。それに伴って彼が提示した交換条件が、自分にとって利益にしかならないのではないかという疑惑が頭をもたげた。
大手建築メーカーの如月ハウス社長。そのひとり娘の結婚相手。つまりそれは将来を約束された椅子だった。
それなのに見知らぬ子どもに支援をして、如月になんの得があるだろうか。全てを善意だと思えるほど、綺麗な心は持ち合わせていない。
きっとかわいい見た目に反し、救いようのないワガママなお嬢様なのだと言い聞かせ、自分の幸運を信じようとしなかった。