最初で最後の恋をおしえて
恋を知らない。これは本当だった。彼女にも、彼女のいう恋にも、興味があったのも本当だ。
正体を明かせない数日は、もどかしかった。文字通り小学生並みの付き合いのうぶさは、羽澄の心をさざめかせた。
自転車を避けるためと見せかけ、紬希に体を寄せる。それだけで、紬希は純粋で穢れのない瞳を潤ませ、羽澄を見上げた。
抱き寄せたい衝動が湧き上がる自分を、心の中で嘲笑する。
『悪い男に引っかからずに』とこぼし、おかしくてますます笑えてきた。清らかなまま育った紬希は、自分という悪い男との結婚が決まっている事実に。
自分がこの結婚を辞退すればいいのは、火を見るよりも明らかだった。今まで如月に支援してもらった恩は、何年かかろうと別の形で返せばいい。
しかし、初めてほしいと思った。なにもかもを諦め欲する気持ちなど、とうの昔に忘れたと思っていたのに。
もう無理なのだと心の奥底に仕舞い込んでいた夢が、ひょっこりと顔を出した。
愛する人と幸せな家庭を築きたい。
その相手は紬希がいい。これが恋というのなら、もうとっくに彼女に落ちていた。