最初で最後の恋をおしえて
コーヒーのほろ苦い香り
席に戻ると、ベテランの野々山に助言された。
「如月さんの自由だとは思っていたけど、もう少し同僚と仲を深めてもいいかもしれないわね」
突然の提案に目を丸くする。
「社長の娘だからね。みんな腫れ物にでも触るように扱うじゃない。私も不憫に思っていたわ」
野々山は特別視しないで接してくれた方だ。それがものすごくありがたかった。今も野々山だからこその発言だと思い、黙って聞き続ける。
「けれどあるきっかけで悪意として矛先が向かうのは、その人を知らないからよ。如月さんの人柄を知っていれば、文句なんて言わないわ」
自分は逃げていたのかもしれない。社長の娘として異端として向けられる視線を、諦めてもいた。
「今からでも、間に合うでしょうか」
紬希の弱気な発言に、野々山はニッコリと微笑む。
「気が向いたのなら、参加してみたら。今日は都合よく月に一度のランチ女子会の日よ」
ランチ女子会。社内の人と仲を深めるために誰かの発案で、さまざまな企画が立てられている。
ランチ親睦会や、ランチ会議、社外の人も交えたランチ勉強会もある。
その中でも、女性だけで集まるランチ女子会が今日らしい。
女子会。響きだけでも苦手意識が先に立つ。
「無理にとは言わないけどね。話してみないとわからないこともあるものよ」
紬希の肩に数度手を置き、野々山は自分の席に戻っていった。