最初で最後の恋をおしえて
笹野はにこやかに話し始めた。
「身の丈に合わないと謙遜していた時計は、如月さんのことだっていうのは、本当ですか?」
なにを言い出したのかわからずに、返答に困る。
「羽澄さんの時計の話、ご存じないんですか?」
棘のある言い方に、ああ、やっぱり目の敵にされているのは変わらないんだと再確認する。
「すみません。存じ上げません」
知らないと聞くと、笹野の周り数名でなんだか盛り上がっている。
聞こえてくるのは「知らないなんて」とか、「そんな風に言ったら失礼だよ」とか、不穏な単語。
そして、笹野は得意げに時計の説明を始めた。
「身の丈以上だとは思ったけれど、その時計に見合う男になりたくて、視界に入る度に奮起しているって。時計は如月さんを現していると聞いたので、これってものすごく愛されているんだなあって」
「わあ」と温かい声が湧き上がり、いい話として最後は締めくくられた。