最初で最後の恋をおしえて
しばらく彼にもたれかかったあと、「ごめんなさい。バッグからハンカチを取っていただけませんか」とお伺いを立てる。
「顔、ぐちゃぐちゃで」と続けると「フッ」と柔らかく笑われた。
「ティッシュをもらってこようか」
「いえ、平気ですから」
顔をハンカチで押さえ、彼から離れると、ペーパーナプキンを数枚渡される。
「ありがとうございます。あっ、ごめんなさい。スーツを汚してしまっています」
「ああ」と彼は自身の胸元を確認して、ペーパーナプキンで押さえた。ファンデーションもつけてしまったし、涙で濡れている。
「ごめんなさい。クリーニング代」
「本当にいいから。それより、顔を整えて。店を出よう」
促され、ぐちゃぐちゃの顔をどうにかハンカチで押さえ、席を立った。