最初で最後の恋をおしえて

 しばらく彼にもたれかかったあと、「ごめんなさい。バッグからハンカチを取っていただけませんか」とお伺いを立てる。

「顔、ぐちゃぐちゃで」と続けると「フッ」と柔らかく笑われた。

「ティッシュをもらってこようか」

「いえ、平気ですから」

 顔をハンカチで押さえ、彼から離れると、ペーパーナプキンを数枚渡される。

「ありがとうございます。あっ、ごめんなさい。スーツを汚してしまっています」

「ああ」と彼は自身の胸元を確認して、ペーパーナプキンで押さえた。ファンデーションもつけてしまったし、涙で濡れている。

「ごめんなさい。クリーニング代」

「本当にいいから。それより、顔を整えて。店を出よう」

 促され、ぐちゃぐちゃの顔をどうにかハンカチで押さえ、席を立った。
< 64 / 143 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop