最初で最後の恋をおしえて
手を引かれ、羽澄と歩く。途中、タクシーを拾った彼は行き先を告げた。紬希の家の方向ではなかった。
「あの、どちらへ?」
「正真正銘、俺の自宅」
考えてもみなかった目的地に体を揺らす。胸は驚くほど鼓動を速めた。
「大丈夫だから、って口車には乗らないこと。ただ、今日はその顔では、ほかに行けないでしょう?」
口車に乗らないことと自分で言う羽澄に、紬希は困惑する。
もちろん男性の自宅に軽々しくついていってはダメだ。けれど彼は婚約者で、つい最近は父にふたりの新居を用意された間柄。
「羽澄さんなら、大丈夫ですよね?」
羽澄に聞くのも間違っていると思うのだが、ほかにどうにも出来ない。
「ダメに決まってる。本当に、よく今まで無事に生きてこられたなと呆れるよ」
再び抱き寄せられ、羽澄の顔が見えなくなってしまった。