最初で最後の恋をおしえて
「また泣きそうな顔して」
紬希の前髪を横に流し、そっと頬に手を添える。
「ハハ。まずいな。こんな状況だというのに、きみに欲情してる」
ヨクジョウ。うまく漢字変換ができず、固まっていると、顔が近づいてきて目を見開く。
「フッ。目は閉じないの?」
このならず者は、どこの誰?
どうにか手を突っぱねて、「あの、小学生はこんな」と今さら効力がない話題を持ち出す。
突っぱねている手を握られ、その指先に羽澄は唇を寄せる。
「俺たち大人でしょう?」
当然の主張が、紬希の感情を揺らがせた。止まっていた涙は再び流れ出す。
「思惑通りとは言え、迫ったせいで泣かれるのは、いささか堪えるな」
苦笑しながらも、羽澄は紬希の腕を引き、自身の胸に収めた。
「ほら、今なら存分に泣いていい。スーツが汚れる心配もないし、鼻もかみ放題」
これには笑ってしまい、泣き笑いになる。
「もう。女性にそんな台詞言います?」
「きみは特別」
こんな状況なのに、柔らかく言われ、胸がトクンと音を立てる。
「きちんと胸に顔をつけておかないと、キスするからな」
どんな脅しよ。そう思いつつ、急激な眠気に襲われ、いつの間にか眠っていた。