最初で最後の恋をおしえて

 温かいぬくもりに顔を埋めてから、重たいまぶたを開ける。

 呆れているような困っているような、微妙な表情をした羽澄と目が合った。

「男の家で無防備に眠るとか、本当心配になる」

「あっ、その、ごめんなさい」

 男の家以前に、羽澄の胸にもたれかかって眠っていた。

「まあ、いいよ。親御さんには、連絡しておいた。好きなだけ外泊しなさい。なんなら、そこに住まわせていい。だそうだ」

「父ですか?」

「ああ」

 苦笑する羽澄は、「いい加減、襲うけど心構えはいいわけ?」と悪態をつく。慌てて、彼から離れると、「ククッ」と笑われた。

「羽澄さん、意地悪です」

「本性はこんなもん。ガッカリした?」

 彼は立ち上がり、「コーヒー飲むでしょう?」とキッチンに向かった。リビングから彼がコーヒーを淹れている姿が見える。なんだか不思議な気分だ。

「あの、今は何時でしょうか」

「夜の十二時」

「え」

 戻ってくる彼とカップを見比べる。

「こんな時間にコーヒーを飲んだら、眠れなくなるんじゃ」

「寝かせないに決まってるだろ」

 口の端を上げる羽澄が、吹き出して腹を抱える。

「あー。どんなエロじじいキャラだよ」

 羽澄はひとしきり笑い終えると、構わずカップに口をつける。

「随分眠っていたから、飲まなくても眠れないと思うよ。うとうとされるよりは、起きていてほしい」

「すみません。羽澄さんの前では眠ってばかりですね」

 前の倒れたときもそうだった。彼には情けない姿ばかり見せている。

「ああ、眠り姫と呼ぼうか」

 不意に手を握られ、肩を揺らす。
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