最初で最後の恋をおしえて

「俺と恋をするのは、そんなにもあり得ない?」

 握っている手を見つめる彼は、目を伏せたまま質問をした。

「そういう、わけでは」

 口籠る紬希に、羽澄は思わぬ話をし始めた。

「俺なりに小学生の恋をなぞったつもりだった。男の方が最初にプレゼントを渡したんだろ?」

「それは、そうですけど、もっとかわいらしいプレゼントです」

 紙袋を見るだけで、どこのものかわかるような、そんな高価なプレゼントではない。

「そこは、男のプライドが邪魔をしてだな」

 不貞腐れる羽澄を見て、なんだか馬鹿らしくなる。

「お金がかかる女って、言われている気がしたんです」

 これには羽澄が目を丸くした。

「マンションひとつ、ポンと渡されるお嬢様に、なにを渡しても驚かれないでしょう?」

「お嬢様って、呼ばれたくありません」

 羽澄を見上げる。すると彼は紬希の手を握っていない方の手で自身の顔を覆うと、ため息を吐いた。

「そういう目で見ないでくれ」

「そういう目、とは?」

 覆った手の隙間から、彼がこちらを見遣る。

「俺の理性の問題」

「え?」

 間抜けな声が出て、彼は顔を背けた。

「正直、俺としては今すぐにでも大人の関係になりたい。押し倒して、そういう、まあ、自粛するが、いろいろしたい」

『そういう、まあ』の間に聞いてはいけない諸々が含まれていそうで、顔が熱くなる。羽澄が一瞬だけ紬希の様子を伺って、それから深いため息を吐いた。

「だから、そこで頬を染めないの。男は勘違いする」

 髪にクシャリと手を入れた羽澄の横顔を見つめていると、ゆっくりと彼は顔をこちらに向けた。
< 69 / 143 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop