最初で最後の恋をおしえて
「俺と恋をするのは、そんなにもあり得ない?」
握っている手を見つめる彼は、目を伏せたまま質問をした。
「そういう、わけでは」
口籠る紬希に、羽澄は思わぬ話をし始めた。
「俺なりに小学生の恋をなぞったつもりだった。男の方が最初にプレゼントを渡したんだろ?」
「それは、そうですけど、もっとかわいらしいプレゼントです」
紙袋を見るだけで、どこのものかわかるような、そんな高価なプレゼントではない。
「そこは、男のプライドが邪魔をしてだな」
不貞腐れる羽澄を見て、なんだか馬鹿らしくなる。
「お金がかかる女って、言われている気がしたんです」
これには羽澄が目を丸くした。
「マンションひとつ、ポンと渡されるお嬢様に、なにを渡しても驚かれないでしょう?」
「お嬢様って、呼ばれたくありません」
羽澄を見上げる。すると彼は紬希の手を握っていない方の手で自身の顔を覆うと、ため息を吐いた。
「そういう目で見ないでくれ」
「そういう目、とは?」
覆った手の隙間から、彼がこちらを見遣る。
「俺の理性の問題」
「え?」
間抜けな声が出て、彼は顔を背けた。
「正直、俺としては今すぐにでも大人の関係になりたい。押し倒して、そういう、まあ、自粛するが、いろいろしたい」
『そういう、まあ』の間に聞いてはいけない諸々が含まれていそうで、顔が熱くなる。羽澄が一瞬だけ紬希の様子を伺って、それから深いため息を吐いた。
「だから、そこで頬を染めないの。男は勘違いする」
髪にクシャリと手を入れた羽澄の横顔を見つめていると、ゆっくりと彼は顔をこちらに向けた。