最初で最後の恋をおしえて

「キス、したい」

 薄く開いた唇を見つめ、目を逸らせなくなってしまった。

 そこからは、スローモーションで景色が変わっていった。一度目を伏せた羽澄がこちらに手を伸ばし、頬に手を添えた。

 そして下から覗き込むように顔を傾けると、そっと唇が触れた。

 彼の唇から伝わってくるコーヒーの香りに、胸が締め付けられる。

 コーヒーのほろ苦さが、自分たちは小学生ではなく大人なのだと改めて実感させる。

「突き飛ばさないの?」

 当然の質問を、聞いている余裕も理解している猶予もない。

 顔は再び近づいて、優しく触れる。

 一度、二度と触れ合うと頬に添えていた手は髪を後ろに流し、頭を包み込んで引き寄せた。

 何度も重ね次第に濡れてくる唇は、ただ触れるだけのキスから変わっていき、紬希は羽澄にしがみつく。

「嫌?」

 甘い問いかけに、力なく首を横に振る。

 嫌ではなかった。ただ、どうしようもなく鼓動が速まって仕方がない。

「それなら、もう少しだけ」

 囁きに胸が疼き、吐く息に甘い吐息が混じる。

 再び唇が重なると絡み合い、背筋に痺れに似たなにかが走る。堪らず羽澄の肩をしがみつく。

 すると髪を撫でられ、優しく耳打ちされた。

「紬希がほしい」

 そのまま耳に唇が触れ、身を捩る。熱い指先は体の線をなぞり始め、甘い声が漏れる。
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