最初で最後の恋をおしえて
羽澄を真っ直ぐに見つめると、彼は両手を上げた。
「わかった。送るよ。タクシーを呼ぼう」
かくしてギリギリ外泊とはならず、帰宅する。果たして問題なのは外泊なのか、それさえも今の紬希には判断できそうにない。
「羽澄さんも少しでも眠ってください。私は大丈夫ですので」
タクシーで家の前まで送り届けられれば、危険はない。
「わかった。そうする。コーヒーとは別の問題で眠れそうにないけどね」
意味深に言ってから、羽澄は紬希の髪に手を差し入れ、数度撫でた。
「俺のお姫様。会社では元気な姿で会おう」
タクシーに乗るまで見届けて、彼は戻って行った。
濃厚な時間を過ごし、頭はパニックで眠れそうにないのに、オーバーヒート気味のせいか紬希を眠気が襲う。
「こういうときに眠れちゃうから、眠り姫なのね」
羽澄に揶揄された『眠り姫』に微笑む。
「お嬢様より、ずっといい」
重大な出来事を思い出さないようにして、なんとか自宅のベッドまでたどり着くと、泥のように眠った。