最初で最後の恋をおしえて
これは恋じゃない
朝、父に会うと「なんだ。帰っていたのか」と素っ気ない態度を取られた。
年頃の娘の外泊を勧める親なんて、どうかしてる。よほど羽澄を気に入っている様子が伺えた。
眠い目をこすりながら出社をする。泣き腫らした目は、温めたり冷やしたりして、どうにか目立たない程度に落ち着いた。
職場に着くと、すでに羽澄は来ていて席にいた。睡眠不足はつゆほど感じさせない。
拍子抜けするほど、なにも変わらない朝。景色もキラキラ輝いたりはしていない。
紬希が出社したのを知ってか知らずか、笹野が羽澄に話しかけている。まだ始業前のせいかふたりの声が大きく、否が応でも聞こえてくる。
もしかしたら、わざと聞こえるように話しているのかもしれない。
「いい加減、くれてもいいじゃないですか。羽澄さんよりも大切にしますよ」
「これは大切なものですから」
敬語で受け答えをする羽澄は、目尻を下げ、パソコンのディスプレイの脇を見つめている。