最初で最後の恋をおしえて

「かわいいライオン。そういうのが好みなんですか?」

 かわいいライオンと聞こえ、つい視線をふたりに向けてしまった。一瞬だけ羽澄と目が合い、慌てて視線を逸らす。

「猛獣を手懐けるのも、一興でしょう?」

 ああ、そういう発言をするから、今度は「デスクにあるライオンのぬいぐるみが如月さんを想って置いているって本当ですか?」って聞かれるんだ。

「猛獣を手懐けるのが大変って言っていました」と、暗にみんなに知らしめられるのだろう。どうせ好き勝手言われるんだから。

 そう八つ当たりしたい気持ちを凌駕するほどに、うれしい気持ちが上回る。

 もしかして、ずっと前から会社に置いてくれていたのだろうか。本当はライオンが彼で、ネズミが自分のつもりだったのに。

 笹野が去ったのを確認してから、もう一度彼を盗み見る。羽澄は紬希にだけ見えるように、手の甲を上にして、もう片方の手のひらで撫でた。

 紬希は手で顔を覆うだけで精一杯だった。
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