最初で最後の恋をおしえて

 終業後、スマホを確認すると羽澄からメッセージが届いていた。

《今日も集合しないか》

 数分前だ。席に羽澄の姿はない。彼がコーヒーショップに向かってしまう前にと、急いで返事をする。

《今日は早く帰った方がいいのではないでしょうか。寝不足じゃないですか?》

 するとすぐに返事があった。

《メッセージも恋をサボってる。やる気があるのか話し合いたい》

 恋をサボっている。なんだかすごいひと言だ。たしかにメッセージは事務的ではあるけれど。

《サボっているつもりはなくて》

 恋と婚約者。どう両立をすればいいのか、わからない。

 このまま見れば素敵な言葉に感じるが、実際は『小学生の恋をお手本にする行動と、愛のない婚約者という立場』が正式なところだ。

 紬希だってわかっていた。羽澄は大人の男性であり、気持ちがなくても関係が持てるし、気持ちがある素振りができることくらい。

 なにより、『気持ちがなくても、付き合った経験はある』というニュアンスの言葉を本人から聞いている。
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