最初で最後の恋をおしえて

 今日はさすがに羽澄の方が先にいて、音を立てないように彼に近づく。

 目隠しをしてきた彼に仕返しをしようと思ったけれど、直前で怖気付き、そっと指先を頬に当てるだけにとどめた。

 ただ、触れた感触で彼が横を向いたため、頬に指が食い込む結果になり、想像よりもかわいらしい構図となった。

「ふふ。小学生に戻ったみたい。よくこういうのやりましたよね」

 手を離すと、羽澄は自分の頬をさすっている。

「今思うと心臓に悪いな。急に満面の笑みで現れられて」

「そんなに驚きました? それなら成功かな。羽澄さんって、顔に出ませんね」

 隣に腰掛ける間、羽澄はずっとこちらを見つめている。

「あの、なにか?」

「いや、なにも」

 羽澄は前に向き直り、窓に向かって話し出した。

「昨日は、大丈夫だった? 色々、その、ごめん」

「いえ。私の方こそ、ごめんなさい」

 謝るのは自分の方だ。大泣きをして困らせた。

 それに、もうひとつの方を言っているのなら、謝られると彼が後悔しているように聞こえて傷つく。

「如月さんさえ良ければ、まだ続けたい」

 名字で呼ばれ、改めて自分たちの関係の名前がわからなくなった。知り合い? 同僚? 名ばかりの婚約者?
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