最初で最後の恋をおしえて
両手をテーブルの上で組んだ羽澄は、突如として驚く提案をする。
「俺たち、一緒に住まない?」
「へ?」
思わず間抜けな声が出る。
「会話も関わりも圧倒的に足りないと思う。職場で話したくても、秩序を持った接し方をしなければならない」
組んでいた手を解き、片方の手を紬希の手の上に重ねる。
「あの、手」
「会社では、触れるだけでも白い目で見られる」
まだ婚約者と知る前、資料を持つ手に微かに彼の手が触れたのは、もしかしてわざと?
真相を問いただしたいのに、彼は重ねていただけの手の親指で紬希の手の甲をなぞった。
一瞬、頭の奥底に追いやった、熱に浮かされた夜の情事が蘇りそうになり、慌てて頭を振る。
「や、やめてくだい」
声を震わせ訴えると、彼は手を離した。すぐさま自分の胸の前で両手を握り締め、羽澄に抗議する。
「羽澄さんは、恋は知らなくても恋愛上級者でしょうから、からかって楽しいのかもしれませんが」
「そうじゃない」
否定されても、どこがどう『そうじゃない』のか。