最初で最後の恋をおしえて
カフェを出て、一応羽澄から見えるところにいた方がいいかなと思い、カウンター席から見える場所で電話をかける。
数度呼び出し音が鳴ったあと、「はい」と葵衣の声がした。
「もしもし? あの、突然で申し訳ないんだけど、意見を聞かせてくれない? 羽澄さんが、一緒に住もうって言うの」
「えー!」
言葉尻を盛大に上げ驚く葵衣に、ほら、やっぱりこれが普通の反応と、安心する。しかし、それも二秒程度の間。
「すごいね。急展開。良かったじゃない」
「え? 待って。良かったの?」
「ん? なにが? だって、好きなんでしょう? 彼のこと」
前触れもなく言われた『好きなんでしょう?』が、頭をぐるぐる回る。
チラリと羽澄を伺うと、コーヒーを口にしていた彼がこちらに気づき、指先をひらひらさせた。
バッと体ごと羽澄を視界から外し、葵衣に反論する。
「どうして? 私が?」
「もちろん。紬希は気づいてなかったかもしれないけどさ。羽澄さんの話をするとき、楽しそうだし」
「そ、んな」
「一緒に住むのは嫌なの? それなら断ればいいと思うよ」
葵衣の意見は、求めていた通り正しい。嫌なら断ればいい。ただそれだけ。
「わかった。そうする」
「一緒に暮らしても楽しいと思うのに」
楽しげな葵衣の声を聞き、ドキリとする。
「とにかくありがとう。突然電話してごめんね。じゃ、また」
「うん、またね」