最初で最後の恋をおしえて
そうじゃない。反論しようとした体が温かいなにかに包まれる。
「悪いが俺の連れだ」
声の主は羽澄だ。紬希を後ろから抱えた彼の表情は見えない。
「そいつは失礼しましたー」
軽いノリで男性ふたりは去っていく。
紬希の体は、後ろからすっぽりと羽澄の腕の中に収められていた。
「来るのが遅くなった。大丈夫?」
なにも喋れない紬希を、羽澄が覗き込む。後ろから抱き締められ、覗き込む羽澄の顔は近くて見ていられない。
不意に葵衣が言った『好きなんでしょう?』が、頭を駆けていく。
「だ、大丈夫です。大丈夫ですから、離れてくれませんか」
訴えているのに、羽澄は逆にきつく抱き締めた。
「離したら、どこかに行ってしまいそうで、離したくないな」
無理だよ。葵衣。気持ちがなくても、こんな台詞を言えるこの人と一緒に暮らしたら、命がいくつあっても足りない。
「離してください」
「一緒に住むって言うなら、離してもいい」
「脅迫じゃないですか」
「うん。脅してる」
楽しそうに言う羽澄に付き合っていられない。