最初で最後の恋をおしえて
羽澄との待ち合わせは昨日のコーヒーショップ。先に注文し、店内にいてほしいと言われた。
変わった待ち合わせ方法だと思いはしたけれど、ホットのカフェラテを片手にカウンター席についた。
窓から外が見えるその場所は、ぼんやりと過ごすには打ってつけだ。
友人と楽しそうに話す若者。親子で手をつないで歩く睦まじい姿。恋人らしい男女は腰に手を置いて体を寄せ合っている。
おもむろにカップに口を寄せ、息を吹きかけてから傾ける。カフェラテのほどよいミルクの甘さが体にしみる。
「やっぱり正解だ。きみのその横顔、見ていたくなる」
穏やかな声の主は、ゆったりとした動作で隣に腰掛けた。
「おはよう」
「おはよう、ございます」
『おはよう』には遅い時間だが、反射的に返す。もちろん隣に座ったのは羽澄だ。
彼は昨日よりもラフな格好で、休日の彼の方が親しみやすさを感じた。
しかし、会って早々の軽い褒め言葉に、呆れ声が漏れる。
「正解ってなにがですか」
「待ち合わせの方法。その顔がまた見たくなった」
爽やかな顔は、にっこりと笑みを携える。
その顔って、どの顔?
熱くなりつつある顔を自覚して、慌てて手で覆う。
「羽澄さんに、私からおしえることなんて1ミリもないんじゃないでしょうか」
「そうだとしたら、頼まないよ」
羽澄は頬杖をつき、紬希を真っ直ぐに見つめた。
この人は躊躇なく人の目を見られる人なんだなと、なんだか感心してしまう。
そして、恋に偏差値があるのなら、自分よりも彼の方が断然レベルが上だと確信した。
やはり話さなくては、と背筋を伸ばし頭を下げた。