最初で最後の恋をおしえて
「はい。如月です」
たしかに父の声がスマホから漏れ聞こえる。羽澄は紬希に目配せをしてから、話し始めた。
「今日、お嬢さんを自宅に泊めさせていただきたくて、ご連絡しました」
「ハハ。今日こそは成功するんだろうな」
娘を持つ父としては、受け答えが軽くないだろうか。いささか不満に思いつつも、黙ってふたりの会話を見守る。
「それは、どうでしよう。帰られても笑わないでください」
どんなやり取りだろう。とても娘を持つ父親と、その娘を外泊させる男性との会話には思えない。
「大切に育ててきた娘だ。傷つけるのは許さんからな」
最後にひと言だけ父親らしい言葉を残し、電話は一方的に切れてしまった。
通話の切れた不通音を聞きながら、羽澄と顔を見合わせる。
「さすが父親と言うべきか。初めてだよ。釘を刺されたのは。今日は本当に泊まってくると、気づかれたのかもしれないな」
「それまでは、滅茶苦茶でしたよ。それに外泊を認めているのは変わりありませんし」
紬希としても意外だった。大切に育ててきたなんて、言うような父じゃない。
「泊まるのは初めてでも、先に大人の関係にはなっているのにね」
羽澄のつぶやきに、紬希は目くじらを立てる。
「い、今言う必要あります?」
散々、そんな素振り見せなかったのに!
言葉にされ狼狽える私に、羽澄は苦笑する。
「ハハ。良かったよ。俺の願望が見せた夢じゃなかったみたいだ」
うれしそうな、それでいて照れているような表情をされ、言葉に困る。羽澄にとっても特別な夜だったのかもしれないと感じて、どう応えればいいのかわからない。
「必要なもの、コンビニに買いに行こうか」
誘われて頷いた。