最初で最後の恋をおしえて

 夜の道を意味もなく遠回りして歩くのも新鮮で、見上げると羽澄が「ん?」と視線を向ける。「んん」と答える無駄なやり取りも、なんだかうれしくて。

「俺、恋人が手をつないで歩いてるのを見るのが嫌いだった」

「どうしてですか? 幸せの象徴じゃないですか」

「俺、心狭いやつだな」と嘲笑するから、「そうですね。極狭です」と乗っかる。

「自分の心に余裕がないと、人に優しくなれないよな」

 しみじみと言う羽澄を意外に思う。

「羽澄さんって、見た目穏やかでいい人を象徴している感じでしたけどね」

「過去形なのが気になるが」

 横目で見えられ「気にし過ぎですよ」と笑う。

「初対面でも見抜かれる人には見抜かれるよ。鋭い人には『目が笑ってない』って言われたりする」

 意外なこぼれ話を聞きながら歩いていると、すれ違った人が「あ」と言ってこちらを凝視した。
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