最初で最後の恋をおしえて
顔を向けると、そこには笹野がいた。
体を固くして、つないでいた手を解こうとしたら、逆に強く握られる。
「やだー。こんなところで会うなんて」
コンビニくらいいいか。で、知り合いに会うレベルじゃない。
出来れば会いたくなかった人物。しかも、羽澄の近所に彼女は住んでいるの?
体が震え出しそうになり、自分の腕をもう片方の手でつかむ。
「見せつけられちゃって、私馬鹿みたい」
見せつけたいわけじゃない。故意にふたりでいるときに、笹野と会おうと企てたわけでもない。つないだ手は羽澄によって、離されないけれど。
「どちらに?」
羽澄が冷静に対応する。笹野は、表情を曇らせて言った。
「元彼のところ。別れても戻っちゃう、グズグズの関係。もーやだな。この近辺に羽澄さん住んでるんでしょ?」
当たり前の予想に、体をこわばらせる。
「先の見えない関係、やめてやるわよ。ここに来たら、またふたりに会うかもしれないんでしょ? やってられないわ」
紬希はこわごわ、お願い事を口にした。
「あの、お会いしたことは、会社で言わないでいただけますか」
笹野は紬希を見つめてから、羽澄に視線を向ける。そしてため息を吐いた。
「言わないわよ。私も、元彼とズルズルしてる女って噂、流さないでね。新しい出会い求めてるんだから」
彼女はそそくさと、紬希たちとは逆方向に歩いていく。
彼女の姿が見えなくなってから、羽澄に質問をした。
「どうして笹野さんが、この辺りに住んでいないとわかったんですか?」
「いや、わかったわけじゃない。どちらに?と言ったときの返答で、近所に住んでいるかどうか予測がつくと思っただけ」
結果はその通りになった。
「さあ、目的地に行こう」
どことなく急ぎ足でコンビニへと向かった。