もう、キスだけじゃ足んない。


甘いキスと、甘い言葉。

愛おしいと言わんばかりに細められた甘い瞳。


「ふっ、え……」


「ごめんな、ちょっといじわるしすぎたな」


「っ、ううっ、」


「ほんとにごめんな。
ぎゅー、する?」


「ん……」


耐えきれなくて落ちた涙。

それを伝って目尻に、まぶたに落ちてくるキスがくすぐったくて目を閉じれば、「胡桃……」なんて優しい声でよばれて、ゆっくり頭をなでてくれる。


「胡桃と結婚できると思ったら、うれしすぎてめちゃめちゃ調子にのった。やっと、言えたって」


「そう、なの……?」


「ん。好きになったときからもうずっと、結婚したいと思ってたから」


「っ……」


たしか芸能界に入る前に、事務所の人に啖呵(たんか)切ったって、マネージャーの清見さんが言ってたっけ。


「なのに、泣かせてほんとにごめんな」


めちゃくちゃ反省してるっぽい……。


さっきはあんなにいじわるに笑ってたのに。

今は眉を下げて悲しげに目を伏せて。


「遥」

「ん……?」


「その、私、」

「うん……」


言おうとして、口を開いて。

でも言えなくて、また閉じる。


「どうした?」

「っ、その……」


煮えきらない私の反応に、捨てられた子犬みたいに落ち込んでた遥がキョトンとする。

い、言いにくい……。


「言いにくい?」


そうだった……っ!

今遥、私の心の声、聞こえるんだった……!

えーい、もうこうなったら……!


「遥」

「うん?」


「その……私、それを口に出すのはずかしいから、心の声聞いてくれる?」


「え、うん……いい、けど……」


はずかしいけど。

それはもう、めちゃくちゃはずかしいけど。


誤解されたままなのは、いやだから……。
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