もう、キスだけじゃ足んない。


「桃華」

「ん?」


「抱きしめて、いい?」

「うん、いいよ」


そっと覆いかぶさってきた杏。

その顔は、ホッと力が抜けたように優しい顔をしていて。


「ごめん、さっきは。
余裕もなく桃華のこと、怖がらせた」


「ううん、ぜんぜんへいき。
というか……」


いつもの穏やかさも余裕もなくなるくらい、心配してくれたんだって。

それだけあたしのこと、好きでいてくれてるんだって。

こんなときに不謹慎だけど、杏に求められるの、正直めちゃくちゃよかったというか……。


「よかった?」


「へ?」


「さっきみたいなやつ」


「うえええ!?」


「ちがった?」


「っ、なっ……」


「桃華?」


「っ……ちがわな、い……」


「ふっ、かわいい」


じっと見つめてくる熱っぽい目から逃げるように顔を背けてたら、掬うようにあごを持ち上げられた。


「もっとよく見せて」

「っ……」


「さっきは余裕なくてちゃんと見れなかったから。
桃華のかわいい姿、この目に焼きつけたい」


「っ、無理、そんな、見ないで、」


「そのお願いが無理。
はずかしいなら、手、握っててあげるから」


そっと両手に指が絡んで、シーツに押しつけられる。

手握ったら顔とか体、隠せてるものなくなるじゃん……!


「桃華、お人形さんみたいにかわいいから、こういうメイドさん?レースとかついてるの、ほんとに似合う。かわいい」

「っ……」


さっきまで見えていた心配や不安の色はもう一つもない。

そこにあるのは、ただあたしを見つめるゆるりと細められた甘い甘い瞳だけ。
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