もう、キスだけじゃ足んない。


はあぁぁぁって、深いため息をついて、あたしをぎゅうっと抱きしめた杏の背中をポンポンする。


「あの、杏……」


「もう俺、どうしよ……桃華のこと、まじで離してあげられない」


「えっ!?」


離してあげられないって……。


「家の中閉じ込めて、誰にも桃華に会わせたくないってくらい、桃華のこと独り占めして……」


「わーわーわー!
ちょっと落ちついて杏!!」


「落ちついてるよ」


真顔でとんでもないことを言い出した杏に、頭が混乱する。


このやりとり、前にもしなかったっけ……?なんて。

でも杏がここまで取り乱すことほとんどないから、こんな姿を見られるのは、あたしだけなんだって。

あたしが杏をこんなふうにさせてるんだって思えて、胸がキュンとする。


あたしも杏のこと、離したくない。

だれにも見せたくないって、中学のときから思ってたって知ったら、どんな反応するのかな。


付き合い初めたのは一昨日から。


でも遥たちとはちがって、あたしたちはどっちも芸能のお仕事をしてるから、お互いの時間を作れることはほぼなくて。


杏は遥とちがって、女の子には優しい。

ファンサもするし、握手もサインも笑顔で引き受ける。


杏はあたしの。あたしの彼氏なの。

そんなに近づかないで。

そんなに杏くんって、名前呼ばないで。


一緒にいたし、離れたくない。

もっと杏とふたりでいたい。


ずっと、ずっと。

好きになったときから思ってた。


実の妹に嫉妬するくらい、杏のぜんぶをあたしのものにしたいって。

杏のぜんぶがほしい。


女にも人並み以上の独占欲はあるんだよ。


でもそう思うのはあたしの勝手なわがままだから。

杏のこと、これ以上困らせたくないってわかってるのに。


「俺も、いっしょにいたいよ」

「え?」


「離れたくないし、ふたりでいたい。
桃華がいろんな男にかわいいって言われるの、いやだ。ぜんぶ俺だけがいい」


めちゃくちゃうれしい、幸せ。

そう言わんばかりに、愛おしいと言わんばかりにあたしを優しく見つめてくるから。


「っ、なんで、わかるの……っ、」


もう、我慢、できなくなる。


「分かるよ。だって……」


桃華のこと、ずっと好きだったから。
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