もう、キスだけじゃ足んない。


「たりないよ、」


「え?」


「あたしだって、たりない……」


「桃華……?」


「中学のときから、ずっと杏がほしいって思ってた。周りの女の子全員に嫉妬するくらい。
こんな身勝手な独占欲で、杏のこと困らせたくないし、引かれたくないって思うけど……」


「……」


「桃華、聞かせて」


ぜんぶ教えてほしい。

俺にどうしてほしいのか。

桃華は、どうしたいのか。


羞恥で濡れる瞳をじっと見つめて、今にもうれしさでどうにかなりそうのを必死に我慢する。


「あたしも、杏の、ぜんぶがほしい」


「っ……!!」


「もう、待ってるだけはいや。見てるだけはいや。
あたし、杏のことが好きで好きでたまらないの……っ」


「桃華……っ」


強く強く、抱きしめる。


ありがとう、応えてくれて。

そう言ってくれて。

今度こそ落ちた涙もぜんぶほしいと思うくらい、俺だって桃華が好き。好きなんだ。


「日曜の日、あたしのこと、ぜんぶもらって」


「うん。
桃華も、俺のこと、もらってくれる?」


「うん、ほしい……っ、」


そう言ってくれた桃華の言葉を最後に、俺はまた桃華に何度も何度もキスを降らせる。


好きだって思ったら、もう時間なんか関係ない。


いくら好きって言って、ふれて、ふれあっても。


たりない、たりない。

桃華が、たりない。


ぜんぶほしくなる。

桃華のぜんぶがほしくてたまらなくなる。


「っ、ん、杏……っ、」

「ん、なに……?」

「好きだよ。大好き……」

「俺も大好きだよ」


赤く顔を染めて、まっすぐ見つめてくる桃華。

好きだって感情がとまらない。底を知らない。

もうお互いしか見えてない。

どこまでもどこまでも、ふたり溺れていくだけ。
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