もう、キスだけじゃ足んない。


甘利が隣でなんか言ってるけど、ぜんぶ無視して胡桃のところへ急ぐ。


こんな10分もない休憩のうちにだよ。

俺がちょっと離れたすきに告白したり、連絡先聞いたり、口説いたり。

元々モテてた胡桃のそれが最近加速してる。


俺いるんだけど?

胡桃が指輪つけてるの、見えてねーの?


「ほんとにだめ?」

「えっと、あの……っ」


胡桃に近づくな。


「────胡桃」


「遥……っ」


うわ、やっべ。

めちゃくちゃ怒ってんじゃん……。


俺の姿を見た瞬間、冷や汗をかき始めた男どもから引き離すように、グイッとその背中を引き寄せて、腕の中に閉じ込める。


『よかった……顔近くて困ってたから……』

「見てんじゃねーよ」


ひっ!

顔を真っ青にして、今度こそ教室へと入っていく。

なら最初からこんなことすんなよ。


「ごめんね、遥、何回も……」


「俺は大丈夫。
胡桃は、へいき?どっかさわられたとか、ない?」


「ん、大丈夫……遥にしか、さわってほしくないから……」


「っ……胡桃、ちょっと……」


ほんのり顔を赤く染めて、目を伏せる胡桃にドクンと胸が高鳴る。


「えっ……どこいくの……っ」


ちらりと時計を見る俺。

よし、授業が始まるまで、もうちょっと時間あるな。


「きゃあ!遥くんが肩抱いてる!」

「橘さんうらやましい〜!!」


騒がしい廊下をすり抜けて、そのまま人のいないところまでやってきた。


「胡桃」

「なに……っ、んんっ……」


『ここ、廊下……!
人来るかもしれないのに!』


ごめん、わかってる。

けどそんなかわいいこと言われて、キスしないとか無理だから。


深くはしない。

押し返そうとしてくるその手を握って、ふれるだけのキスを何回も何回も。


「胡桃……好き」
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