もう、キスだけじゃ足んない。


「胡桃と話しながら書いてたし、笑ってる顔とか、真面目に課題やってる顔とか、遥ってよぶときの優しい顔とか、ぜんぶがかわいいなーって思って」


「……」


「俺も無意識で、そんなこと書いたって自分でも気づかなくて。あとから担任と、クラスのやつにめちゃくちゃ冷やかされた」


「そうだったんですか……」

「そうだったんです」

「……」

「おいで」

「っ……」


ますます真っ赤な顔して立ち上がった胡桃の手をとって、そっとそばに引き寄せる。


前だったら、ぜったいはずかしがってたのに。


俺の手で胡桃が変わっていく。

今はただ素直に応えてくれる胡桃に、またどうしようもなく好きが降り積もる。


「結構いろんなやつにその話で冷やかされてたのに、胡桃ぜんぜん気づかないから」

「うっ……」


「まあ、でも今こうして俺の隣にいてくれるから、ほんとがんばってよかったって思うよ」


な、俺のほう見て。

そっと指を開いて絡ませれば、はずかしそうにゆっくり顔をあげてくれた。


ああ、ほんとにかわいい……。


羞恥に染まった真っ赤な顔。


この表情を見られるのはこの世界で俺だけなんだって思うと、それだけでもうたまらなくなる。


胡桃の周りに男が近づかないように嫌というほど隣にいて、牽制して。

離れた時期もあったけど、胡桃とまた話せるようになって、両想いになれて。


俺ほんと、胡桃がいるから生きてるって感じだな……。

思い返せば俺の思い出、ぜんぶ胡桃しかない。


でも……。


「また、離れちゃうな……」

「っ……」


ぎゅっと唇を噛みしめた胡桃。


ただでさえあの雑誌で今まで以上に、モテるようになって。

こんなときに芸能科の校舎のほうへ戻らないといけないなんて、嫌すぎる。


俺が向こうに行くことで、胡桃に近づく男はもっともっと多くなるはず。

そんなときに彼氏の俺がそばにいられないなんて。


いくら家でふたりとはいえ、学校にいる時間は一日の大半を占める。


いやだ。

離れたくない。

そばにいたい。

一日中ずっと、胡桃の隣にいたい。
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