もう、キスだけじゃ足んない。
「それで、言わないようにしてたの?」
「っ……」
ごめんなさい。ごめんなさい。
こんなこと、言いたくなかった。
遥が好きでやってることを。
歌を、遥の好きなものを、否定するみたいで。
こんな自分が嫌で嫌で嫌でしょうがなくて。
見て見ぬふりをするしか、なかった。
「でも胡桃は現に無理してた。我慢してた」
「っ……」
「それを俺に言わなかったら、胡桃はどうなんの?
我慢し続けて、限界迎えて。俺は胡桃が無理してるの見るほうが、何倍もつらいし、苦しいよ」
「っ!!」
気づかれてるって思ってなかった。
うまく隠せてるって思ってた。
「寂しい」って、遥は何度も言ってくれてたけど、私は一度も……。
「胡桃……」
その声に、ゆっくりゆっくり顔をあげれば。
「はる、か……」
「なに?」
「なんで遥が、泣きそうに、なってるの……」
遥の目を見た瞬間。
胸を鷲掴みされたように苦しくなる。
眉はこれでもかと下がってて。
ぐしゃって顔が歪んでて。
「笑っていてほしい好きな子に、こんな顔させて、泣かせて……」
「ずっと隠そうとしてるってわかってた。だから、俺が無理やり言わせるのも違うって思って」
「うん……」
「でも、もう無理。
胡桃にこんな顔させるなら、もっと早く言えばよかった」
「え……?」
「寂しいって、言っていいんだよ」
「っ……」
「重荷になんかならない。困らない。
むしろ、言ってよ。寂しいも、いっしょにいたいも、ぜんぶ」
「で、も……」
「もう桃華から聞いたと思う。
ドームで一日限りでライブすること」
「うん……」
桃華が電話で寂しいって言ってた。
これから忙しくなって、もっともっと会えなくなるって。
離れなきゃいけなくなるって。
うれしいし、応援しなきゃって思うのに。
またあの醜くて黒い感情に、飲み込まれる。
「いくら、心の声が聞こえたって。いくら、胡桃の本心が聞けると思ったって。胡桃自身がその本当の気持ちを隠してしまったら……」
「俺は胡桃にとって、隣にいるだけの存在なのかって、弱い部分も見せられないような頼りない彼氏なのかって思ってしまう」
「っ!!」