もう、キスだけじゃ足んない。


「胡桃」

「ん……?」

「このまま、聞いて」


息を整えながら座る私の目の前に、遥はしゃがみこんだ。


まるで子供になにかを言い聞かせるみたいに。

そっと私の両手を包んで、真剣な目で見つめられる。


「言ってよ、いつでも。
寂しいって、いっしょにいたいって」

「うん……」


「仕事で厳しいこともあると思う。
100パーそれに応えてあげられるとは言えない」


「うん」


「でも俺もそうだから。
いつも、思ってるから」


言葉にして、ふたりで分かち合いたい。


「じゃあ、約束」

「うん……」

「もう、毎日言うって、約束」


「う……ううん?」


ん?毎日?


「うん、毎日。
言うって約束な?」


「え」


待って待って待って。一旦落ちつこう。

え、毎日?

毎日って言った?


「そうだよ。ほら、約束しよ」

「いやいやいや!
さすがにそれは……っ!」


極端すぎだし、さすがにうるさいって、なるんじゃ……。


「ならないよ。てか、この俺がなると思う?
さっきも言ったけど、俺の生活の中心は胡桃。胡桃がいないと息もできない」


「……」


「だから俺、しつこいくらいに言ってんじゃん。
一日いっしょにいたいとか、学校休んでもふたりでいたいとか。あれくらい」


「で、でも困らない?
しつこいって、ならない?」


「困らない。胡桃も俺と同じ気持ちなんだってうれしいし、胡桃に困らせられるなら本望だし?」


「なにいってんの……」


ニヤリと笑う遥に、思わず笑みがこぼれる。

ほんと、調子いいんだから……。


「けどさ、もしまた俺に気持ち隠すようなことあったら、そのときは俺、胡桃になにするかわかんないよ」


「はあっ!?」


なにするかって……なに!?

なにされるの!?

もう泣いたこととか忘れて、頭の中がそれでいっぱいになる。

「言っていいの?」

「え……」


「胡桃に嫌われたくないからこれ以上は言わないけど。俺の今までの言動でなら、なんとなく想像つくんじゃねーの?」


「今までの、言動……」

「そう」


思いつくのは、この間私がポリス服着たときのことや、図書室でのこと。

そういえばあれ、ぜんぶ私が事の発端で……。

「っ!!」


なっ……なっ、なななっ!?


「分かった?」

「わかった。わかりました。
もう言わなくていいです……」


「覚悟しろよ」


「だから言わなくていい……っ!」


クスクス笑う遥に、顔がぼぼぼっと熱くなる。

遥の言いたいことが完全にわかってしまった自分が憎い……。


「けどまあ、それは冗談だけど」

「冗談なの!?」


「けど半分は本気かなー」

「どっち!?」


いや、この際どっちでもいい。

とにかくもうこの話、終わりたい……!!
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