もう、キスだけじゃ足んない。



「まだまだ甘えが足らないね、胡桃は」

「え?」


ポンポンと頭をなでられて、遥はゆるりと、とけちゃいそうなほど甘くほほえむ。


「もっと甘えてよ。本音もお願いも。
今まで以上にもっともっと、デロデロに甘やかせられる自信はあるよ」


「で、デロデロ?」


「うん。俺なしじゃ、生きられないくらい」


「っ!!」


本気だと思った。

冗談でもうそでもない。

遥の紛れもない、本気。


その瞬間だけは、その目がうっとり細められた気がして。

本当に、私が遥なしじゃ息もできないくらい、依存させる気だってわかった。


「けどまあ、教室離れるのはまじで寂しいから……胡桃、ちょっとノート出して。自習用とか、自分しか見ない用のやつ」


「え、急になに?」

「いいから」


なにするの?

そう思っていたら、遥は私からペンを借りるとそのまま。


「はい、できた」

「えーと、これは?」


ノートの表紙に描かれたイラスト。

黒髪にリングのピアスをつけた男の子。

どこか不機嫌そうな……。


「今不機嫌って言った?」

「言ってない!言ってません!」


「んー?ほんとに?」

「ほ、ほんと!」

「ぶはっ、まあいいけど」


うっ……。

目を細めて笑う遥に、胸がキュンとする。


「胡桃も書いてよ、俺のノートに」


「似顔絵かー……うーん、でも私絵苦手だからなぁ……」


「前も美術で書いた俺のデッサン、先生引いてたもんな」


「もう!あれは忘れてって言った……!」

「ふっ、ごめんって」


笑わないでよ、もう……っ!


昔から美術や図工が大の苦手な私。

この間も、先生も、クラスのみんな……あの甘利くんでさえ引いてた。

悲しくも、私の絵、見て……。


「んー、だれよりも容姿整ってるし、勉強できるし、運動できるし、ツンデレなとこも最高だし。欠点ないから、美術できないくらい、かわいいもんだよ」


「ナチュラルにけなしてる?」


喜んでいいのか、悲しむべきがわからない……。


「喜んでよ。
え、ふつうにかわいいと思うんだけど」


キョトンとする遥に、うっと言葉が詰まる私。


真面目な顔してなにいってるの!?

美術できなくてかわいいってどういうこと!?
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