もう、キスだけじゃ足んない。


「んー、そのまんまの意味なんだけどな……。
まあいいや。なら、名前書いて」


「ふつうに?フルネームで名前書くだけでいいの?」

「んーん、そうじゃなくて」


弓削胡桃。


「は……」


耳元で囁かれた甘い声にばっと横を向けば。


「俺も名前書くからさ、隣に書いてよ、弓削胡桃って」


「っ〜〜!!」


な?

甘い甘い瞳に見つめられて、優しくペンを握らされた。


「胡桃のノートにも書こうよ」


スラスラ名前を書いた遥の隣に、少し緊張しながら私も書く。


「近い将来、毎日書くようになるだろうから、その練習な?」

「っ……」


愛おしいと言わんばかりに細められた瞳。

もうさっきから胸が痛い。

痛すぎて、どうにかなりそう。


遥のことが、好きすぎて。


「これだったら、このノート開くたびに、授業中でも勉強してるときでも、今日のこと、いつでも思い出せる」


「うん……」


忘れない。ぜったい忘れない。

だって私が人生で始めて書いた、

弓削胡桃、だから。


「じゃあ最後にもう一つ。
胡桃、ちょっと立って」


「う、うんいいけど……っ、きゃあ!?」


なにするの!?


脇に手を差し込まれたと思ったら、ストンと机の上に座らされて、立ったままの遥と視線がぶつかる。


「思い出、作っとく?」

「えっ、は、な、なんの……」


「だって俺がここからいなくなったら、またここにだれか座るだろ?それが男かもしんない。でもここでイチャイチャしたら、隣にだれが座ろうと、この教室にいる限りずっと思い出すじゃん」


あの日、放課後に。

俺とここで、やらしいこと、したなって。
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