もう、キスだけじゃ足んない。
「しないって言っても、するん、だよね……?」
「するよ。いっぱいする」
「っ……」
な、早く。焦らすなよ。
そんな、とろりと甘い声が耳元でしてビクッとする。
「はずかしいとか、すぐにわかんなくなるくらい、気持ちよくするから」
「っ、はる、か……」
「好きだよ、胡桃。
すげえ好き、」
「っ、私も……」
ゆっくり首に手を回して口を開く。
「泣かせた分、いっぱい甘やかしてあげる」
そう言って、遥がそっと目を伏せた瞬間だった。
ブーッブーッー……。
「っ!?」
また!?
「……せとかさん?」
「いや、お母さんじゃない……と、思う」
前にお母さん、ふたりの仲邪魔した!とかなんとか言って、電話する前は必ず連絡するって言ってたし……。
「じゃあ……」
「……」
ふたり、無言になって顔を見合わせる。
「清見さ……んぅ……っ、」
「もういいかげん、俺のほう見て」
「で、も……っ、んっ、」
重なる唇の水音。
その遠くで、ブーッブーッとかすかになるスマホの着信音。
「は、遥……出ない、と……っ、」
「無理。
今日はオフ。胡桃とふたりで過ごすって決めてるし、清見にも言ってあるから死んでも出ない」
「で、も……っ、」
集中、できない……っ。
「……」
そっと離された唇。
至近距離でぶつかる視線は「ぜったいに出ない」って不機嫌な顔で。
ブーッブーッー……。
「……じゃあ、私が出る」
「はっ、ちょっ、胡……っ」
私だって、はやく遥にふれてほしい。
でもだって本当、気になるから……っ。
「電話終わったら、また続きしていいから……ね?」
遥に集中するため、だから。
「っ……あ〜、もう、」
「遥?」
「いつからそんな、小悪魔になったんだよ……」
小悪魔ってなに……?
そう思いながら、髪をぐしゃぐしゃして意地でも出ない遥の横で、通話ボタンを押す。
あ、やっぱり清見さん……。